名古屋市に入庁したきっかけは?

初期臨床研修終了後、外科医として病院で 10 年間働きました。手術、麻酔、重症管理、化学療法、外来、緩和ケア…と非常に充実した日々であった一方、外科医としての働き方に体力的にも精神的にも限界を感じていました。ある程度のワークライフバランスが保てる働き方を模索していたところ、行政で勤務経験のある妻から名古屋市保健所勤務を勧められたのが入庁のきっかけです。また、名古屋市勤務なら、原則として名古屋市外の遠方勤務が無いことも大きな魅力でした。

 

公衆衛生に興味を持ったきっかけは?

入職するまでは実はそれほど公衆衛生に興味は持っておらず、淡々と必要な仕事をこなそう、くらいにしか考えていませんでした。実際に入庁し、コロナ前からコロナ禍、コロナ後を経験する中で公衆衛生行政の重要性と面白さを理解し、今は非常に前向きに業務に取り組んでいます。最近は地域の健康危機管理体制の強化に力を入れています。

 

入庁するまでの公衆衛生に対するイメージは?

結核対策を行ったり、母子保健事業を行ったり、社会にとって必要不可欠な仕事ということは字面では情報が得られたのですが、具体的にどんな働き方をするのかは正直、全くイメージがつきませんでした。

 

名古屋市に勤めてみて感じる、名古屋市保健所の特長や強みは?

打合せ中の田邉医師

各区の保健センターでは直接地域の市民や事業者と接する、いわゆる現場業務が中心です。本庁では全体を動かすような施策形成に関われます。今回のコロナ禍で、本庁が強いリーダーシップを発揮すること、現場がしっかりと動くこと、その両者が適切に連動することの重要性を強く認識しました。名古屋市のような政令指定都市型の保健所で本庁と現場の両方が経験できることは保健所に勤める医師にとっては大きな強みと思います。
また、保健所に勤める医師の重要性を医師以外の職種の方が理解して下さり、保健所に勤める医師の確保・育成のために多くのリソースを割いてもらっていることも大きな強みです。

 

名古屋市では新規採用医師が配属先以外の保健センターにも派遣される形の研修も行っています。この研修を受けられて感想はいかがでしたか?

私は一年目に中区に所属しながら瑞穂区、熱田区、本庁等で研修を受けました。勤務先によって業務の特性が異なることを知れたのも大きいですが、それ以上に人のつながりが増えることの重要性を実感しています。
外国籍の方が多い区、防災に力を入れている区、健康づくりに力を入れている区、など区ごとに特性が違い、その特性に応じた施策や事業を行うことの重要性を学びました。

 

名古屋市の社会医学系専門医プログラムはいかがでしたか?

名古屋市の保健所に勤める医師は「名古屋市立大学・名古屋市社会医学系専門医研修プログラム」を履修し、専門医試験を受験することができます。私はこのプログラムの第一期生であり、専門医を取得しました(2019 年度~2021 年度履修、2022 年度試験合格)。新型コロナ禍での履修は非常に大変でしたが、本庁で履修をサポートする部署があり、何とか修了できました。副分野の履修など、自分だけでは調整が難しい部分を本庁の担当部署が名古屋市立大学と調整をしてくれることが非常にありがたかったです。今はプログラムを修了した立場から意見を出して、更にこのプログラムをブラッシュアップできるように動いています。

 

公衆衛生の面白さは?

クリエイティブな仕事が出来ることです。
外科医として働いていた時は「悪い部分を手術や抗がん剤治療で取り除く」ことが主な業務でした。言わば引き算の考え方です。公衆衛生の仕事は「人々の健康を守るために、社会をより良い形にしていく」ことです。目標を設定し、そこに向けて様々な資源を活用してシステムを作り上げていく、というとてもクリエイティブな仕事です。足し算や掛け算を駆使しているイメージであり、そこに大きな魅力を感じています。

打合せ中の田邉医師

 

入庁前の臨床での経験は入庁後に活きましたか?

はい。
直接的に分かりやすい例としては感染症対策や医療監視の場面です。臨床医療の知識・経験を持っている者がこれらの業務を担当するメリットが大きいことはイメージがしやすいかと思います。
また、総論的になりますが業務の様々な場面で、臨床の考え方が大いに活用できます。臨床では患者さんの医療面接、身体所見、検査結果などからプロブレムリストを作成し、プロブレムごとにアセスメントを行い治療プランを立てる、ということが一連の流れで行われます。これは、情報収集→評価→計画立案→実行→情報収集→評価…というサイクルを回していることになります。
公衆衛生行政の場(1つ前のQで書いた、クリエイティブな仕事の場面)でも、対象が個人ではなく集団や地域全体になりますが、この情報収集→評価→計画立案→実行→情報収集→評価…というサイクル(PDCA と表現されることが多い)を回していくことが不可欠です。臨床医として働く中で、この考え方が自然と身についていたことが入職後に大いに活きたと感じています。

 

若いドクターにメッセージをお願いします。

公衆衛生業務は幅広いがゆえに、保健所の医師が何をしているのか見えにくいように思います。ただ実際に働き始めてみると、その幅広い業務の中から自分にフィットする業務が必ず見つかります。幸い名古屋市には様々なキャリアの医師が在籍しており、20-30 歳代の医師も複数いて、医師間の交流も盛んです。これは他の自治体ではなかなかない名古屋市の強みです。少しでも名古屋市保健所の仕事に興味を持っていただけたら、是非一度見学に来てください。