公衆衛生医師の魅力 – ポイント4
疫学などの社会医学の知識を活かすことができる

瑞穂保健センター 夏田 洋幹
「地域を診る、データで診る」
保健センター業務、例えば食品衛生では、医療機関が食中毒患者を治療するのに対し、保健センターは患者聞き取りや飲食店等の衛生状況調査等により原因を特定し被害拡大を防止します。食中毒に限らず保健センター業務は個別案件対応が多く、特に5類移行前の新型コロナ禍では、積極的疫学調査、健康観察、医療機関受療の調整で長い一日が終わる繰り返しでした。
しかし、感染者への個別対応のみで感染拡大を止めることはできません。John Snowによるコレラ収束のエピソードが示す通り、感染の発生状況を知ることは感染まん延防止の第一歩です。新型コロナでは、感染状況に関する国や自治体のオープンデータに加え、全届出感染者の情報が入力された新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)のデータを活用して、地域の医療機関と感染動向を共有、同時に保健センターの体制を検討する資料としても使用しました。
データの活用は感染症領域に留まりません。地域の健康を向上させるため、地域の状況をデータ化して把握する「地域診断」という手法を用います。地域診断によって得られた地域の特性情報を住民の方々と共有し、まちづくりに貢献することも保健センター業務です。最近は生成AIの登場でデータがあれば何でもできる的な風潮がありますが、地域を実際に観察しデータ化されない情報も含めてClinical Questionを設定し、Answerを導くことが公衆衛生医師の役割であり醍醐味でしょう。
行政は膨大なデータを保持しています。また、名古屋市の保健センターは市型保健所の利点を活かし、地域と密接した関係を築いています。公衆衛生だけでなく統計・疫学に関心をお持ちの先生方にとっても名古屋市保健所・センターはやりがいのある職場です。
※具体的な分析事例は「公衆衛生データからみえる風景」をご覧ください。